不正アクセスの公表は3週間で50件。件数の大きい10件のうち3件は、情報を預けた先が破られていた。
- ⏱ 約11分で読めます - 👁 … views9月20日から10月9日までに公表された国内の不正アクセスのうち、件数の大きい10件を調べました。 10件のうち3件は、委託先やクラウドなど、情報を預けた先が破られたものでした。
自社のシステムが無事でも、預け先が破られれば、お詫びを出すのは自社です。 クラウドのデータは、自分でバックアップを取っていなければ戻らないことがあります。
この3週間に公表された主な事案
ウェステリアの一覧では、9月20日から10月9日までに50件が公表されています。 1日に2件以上です。 そのうち、公表された件数が大きい10件を、次の表にまとめました。 ランサムウェアで業務が止まった事案は、後の節で別の表にしています。
| 公表日 | 組織 | 公表された経路 | 件数 | 段階 |
|---|---|---|---|---|
| 9/25 | タイムズカー(第2報・第3報) | Webシステムへの不正アクセス | 約660万件 | うち本人確認書類の約160万件は漏えいを確認 |
| 9/28 | 手間いらず | 宿泊予約管理SaaSへの不正アクセス | 最大約445万人(10/9公表) | 閲覧・取得の可能性 |
| 10/5 | 物語コーポレーション(焼肉きんぐ) | 公式アプリの会員管理システム。経路は調査中 | 10,788,963件 | 漏えい(悪用は未確認) |
| 10/5 | 大和証券 | 委託先のサーバー | 約11万名(約22万件) | 漏えいの可能性 |
| 10/8 | 第一興商 | 委託先の従業員PC1台がマルウェアに感染 | 約872万4,000件(従業員約9.3万件を含む) | 実際の漏えいは未確認 |
| 10/8 | ローソン | アプリで本人に情報を表示する仕組み | 215万5,345件 | 漏えい |
| 10/9 | ディップ(バイトル) | 一部機能の仕様の不備。海外から | メールアドレス最大3,885,771件 | 漏えいの可能性 |
| 10/9 | skyticket | 管理機能の不正操作など、経路の異なる3件 | 約1,464万件ほか | 流出、または流出のおそれ |
| 10/9 | ブックオフGHD | 子会社の会員管理システム | 最大約643万件(会員番号の数) | 外部からの取得を確認 |
| 10/9 | JR東日本 | IDCフロンティアへの攻撃で、メール配信用の外部サービスが影響 | 最大約206万件 | 漏えいの可能性 |
タイムズカーは、表にない9月下旬のセイコーマートやヤマト運輸などとあわせて、前回の記事にも書きました。
アプリの機能を、想定外の使い方で突かれた
ローソンは、アプリで本人に情報を表示する仕組みを突かれました。 ディップは「仕様の不備」を突かれたと書いています。
いちばん具体的なのは skyticket です。 バスの予約完了ページが、ログインしなくても開ける状態になっていました。 8月3日から10月1日まで機械的に閲覧され、約12,000件の予約が見られています。 別の経路では、管理機能を不正に操作され、そこから約1,464万件のデータに入られました。
3社とも、原因に挙げているのは、もともとある機能の作りです。 作った側が想定していない使い方で、機能を呼ばれています。
JPCERT/CCの10月8日の注意喚起にも、同じ種類の手口が並んでいます。
- 公開されているスマホアプリを解析して、APIの接続先とキーを割り出す
- 画面からは実行できない内部のAPIを、直接呼び出す
- 認証の情報を外したり崩したりして、応答の違いを見る
スマホアプリは利用者の端末に配られるので、中身は読めます。 画面にボタンがなくても、サーバーにAPIがあれば、呼べば動きます。
情報を預かる側が破られた
第一興商は、委託先の日本コロムビアグループで、従業員のPC1台がマルウェアに感染しました。 そのPCに、約872万件の個人情報が一時的に置かれていました。
大和証券は、問い合わせの管理を任せていた委託先のサーバーに入られました。 大和証券自身のシステムへの不正アクセスは、確認されていません。 それでも、お詫びを出し、顧客に連絡するのは大和証券です。
手間いらずは、宿泊施設向けに予約管理のSaaSを提供しています。 9月21日ごろから、宿泊施設の予約者に、予約の内容を知っているような詐欺のメッセージが届き始めました。 カード情報の再入力や支払いを求めるものです。 手間いらずは、自社への不正アクセスが原因の可能性があるとしています。
クラウド事業者のIDCフロンティアは、ランサムウェアで495の企業・自治体に影響が出ました。 JR東日本もその1社で、メール配信に使っていたサービスから、えきねっとなどのメールアドレス等が漏れた可能性があります。
10件のうち、自社ではなく預けた先が破られたのは、大和証券、第一興商、JR東日本の3件です。 手間いらずとIDCフロンティアは、預かる側そのものが破られた事案です。 IDCフロンティアは、業務が止まった事案として、次の節の表に入れています。
ランサムウェアで業務が止まった
この3週間に、ランサムウェアで業務が止まった主な事案は次の3件です。
| 組織 | 止まったもの | 影響 |
|---|---|---|
| 京王電鉄グループ | 一部の営業システム | 鉄道の運行には影響なし。漏えいは未確認 |
| IDCフロンティア | クラウド基盤 | 495の企業・自治体に影響。データの復元は困難な見通し |
| 大阪公立大学(共同通信) | 約500台のサーバー | 10月9日まで対面授業を休止 |
京王電鉄グループは9月26日、ランサムウェアで一部の営業システムが止まりました。 鉄道の運行には影響していません。
大阪公立大学は10月2日に約500台のサーバーが止まり、10月9日まで対面授業を休みました(共同通信)。
IDCフロンティアは、攻撃を受けた区画のデータについて、取り出しも復元も難しいと発表しています。 戻せるのは、顧客が自分で取っていたバックアップだけです。
ランサムウェアの入口は、もうメールの添付ファイルが中心ではありません。 警察庁の2026年上半期の集計では、被害組織へのアンケートで、約5割がVPN機器から入られています。 被害の報告は123件で、半期として過去最多です。
海外でも
デンマークでは、国民の登録簿に照会できる民間企業の権限が悪用され、約880万人分の氏名や住所が漏れました(The Copenhagen Post)。 英国の通販サイト ASOS は、顧客への連絡に使う外部の基盤に入られたと開示しました。アプリにも不正な通知が届いています(TechCrunch)。
書いている最中に、身近なところでも
この記事を書いている最中の10月13日、身近な問題が上がってきました。 住んでいる静岡県内でも、自治体の防災メールが止まりました。
配信を請け負っていたのは、大阪府箕面市のアルカディアです。 同社の「SpeeCAN RAIDEN」は、自治体が防災情報をメールや電話で一斉に送るためのサービスです。 10月11日16時30分に不審な動きを見つけ、12日3時ごろに侵入経路を塞いだと発表しています。
13日11時には、一部のサービスを緊急停止しました。 漏えいした可能性があるのは、最大でメールアドレス約313万6千件、電話番号約10万5千件です(日本経済新聞)。
静岡県内では、7市町のサービスに影響が出ています(静岡朝日テレビ、13日20時時点)。
| 市町 | サービス | 登録件数 |
|---|---|---|
| 静岡市 | 静岡市防災メール | 41,251件 |
| 静岡市 | 静岡市認知症しずメール | 1,779件 |
| 菊川市 | 茶こちゃんメール | 約8,300件 |
| 島田市 | 島田市防災メール | 約7,583件 |
| 牧之原市 | まきのはらTeaメール | ― |
| 御前崎市 | 御前崎市防災メールサービス | ― |
| 伊豆の国市 | Eメール配信サービス | ― |
| 吉田町 | 吉田町防災メール | ― |
私が住む三島市の「みしまるホッとメール」は、この7市町に入っていません。 ただ、市の登録ページにある登録用アドレスは raiden3.ktaiwork.jp で、アルカディアが対象に挙げた6つのドメインの1つです。 この段落を書いた時点では、市のページに停止のお知らせは出ていませんでした。 その後、市は14日に発表しています(下の追記)。
浜松市の防災ホッとメールは、登録先が sg-p.jp で、別の事業者のサービスでした。 登録用アドレスの@から後ろを見ると、どこのサービスか見当がつきます。
13日のうちに配信の停止や漏えいの可能性を公表した自治体は、次の表のとおりです。 まとめサイトのセキュリティ対策Labが挙げた23件に、報道で名前が出た自治体を加えています。 件数は漏えいの可能性がある規模で、確定した数ではありません。
| 地域 | 自治体 |
|---|---|
| 北海道・東北 | 函館市、栗山町、秋田県横手市、宮城県富谷市 |
| 関東 | 北茨城市、鹿沼市、市貝町、館林市、南房総市、横須賀市(58,920人分)、綾瀬市(約1.1万件)、座間市(約1.1万人分) |
| 北陸・中部 | 高岡市、黒部市、上越市、福井市(約6千件)・越前市など福井県内7市町、東海市(1,210件)、静岡県内7市町 |
| 近畿 | 箕面市、豊能町、斑鳩町、兵庫県宍粟市、猪名川町 |
| 中国・四国・九州 | 岡山市、下関市(約1.5万件を調査中)、美馬市(328名分)、佐世保市(約1.2万人分)、大分県(37,936件) |
住民だけではありません。 上越市は消防団員や市職員の氏名と連絡先を、大分県は職員向けの1万269件を、対象に挙げています。 職員の参集や安否確認の連絡にも、同じサービスが使われていました。 学校や幼稚園向けの「ライデン・スクール」も止まっています(日本経済新聞)。
市役所のシステムが無事でも、配信を任せた先が破られれば、住民の連絡先は漏れます。 先に書いた「情報を預かる側が破られた」と同じ形です。
10月14日追記
アルカディアは13日18時47分に詳細の報告を出し、14日10時40分に更新しました。
漏えいした可能性がある情報には、メールアドレスと電話番号のほかに、FAX番号約1万5千件、連絡先の名前、履歴として保存されていた配信の本文も含まれます。 件数は推定で、調査は続いています。 決済の情報は扱っていないので、対象外としています。
止めたのは、raiden3.ktaiwork.jp と s2.ktaiwork.jp を使う顧客のサービスです。 ほかのサーバーは点検し、不正なプログラムがないことを確かめたとしています。
14日の更新では、自治体などが登録者に送るための、二次被害への注意喚起の文案が加わりました。 不審な連絡に氏名・住所・パスワード・口座情報を伝えないこと、身に覚えのない送信元のURLや添付ファイルを開かないこと、という内容です。
横須賀市は13日の発表で、すでに不審な迷惑メールが届いていることを確認したと書いています。
セキュリティ対策Labの一覧は14日に更新され、少なくとも72の自治体が並んでいます。 上の表は13日時点のものです。
三島市も14日、「みしまるホッとメール(市民メール)サービスの不正アクセスについて」を出しました。 お知らせに運営会社の名前はありませんが、登録用アドレスは先に書いた raiden3.ktaiwork.jp です。 運営会社がメールシステムを緊急停止したため、市からの配信も止まっています。 漏れたおそれのある情報には、登録者の受信アドレスが含まれる可能性があるとしています。 件数や再開の時期は書かれていません。 受信アドレスあてに架空請求などが届くおそれがあるとして、見覚えのない相手からのメールは、URLや添付ファイルを開かずに削除するよう呼びかけています。
ニュースになるのは一部だけ
大きく報じられたのは、タイムズカーや焼肉きんぐなど、件数の大きい数社です。 50件の一覧には、名前を知らない会社や大学が多く並んでいます。
不正アクセスによる漏えいは、1人分でも、おそれの段階でも、個人情報保護委員会への報告が義務です(個人情報保護委員会)。 本人への通知も義務です。 ただ、世間への公表は義務ではありません。 表に出ているのは、起きている件数の一部です。
10月8日から9日にかけて、JPCERT/CC、国家サイバー統括室、IPA、金融庁などが注意喚起を出しました(piyolog のまとめ)。
中小企業が、今週確かめておくこと
自社でシステムを作っていなくても、顧客の情報はどこかに預けています。
1. 顧客の個人情報を、どこに預けているか
予約システム、問い合わせフォーム、会員アプリ、メール配信、クラウドのストレージ。 この一覧がないと、預け先の事故が報じられても、自社が関係あるのか判断できません。
2. アプリやWebを外注しているなら、委託先に聞くこと
画面にない機能(非公開のAPI)にも、ログインと権限の確認があるか。 同じ相手からの大量の要求を、止める仕組みがあるか。 使わなくなった認証用のトークンや管理機能を、止めているか。
3. クラウドのデータを、自分でもバックアップしているか
クラウド事業者ごと止まると、事業者のバックアップには手が出せません。
4. VPN機器を、最新にしているか
ファームウェア、退職者のアカウント、多要素認証。 ランサムウェアの入口の約5割は、ここです。
5. 漏れたときに、誰に何を連絡するか
個人情報保護委員会への報告、本人への通知、問い合わせ窓口。 連絡文の雛形を先に作っておくと、当日に迷うことが一つ減ります。
件数の大きい10件のうち3件は、自社ではなく、情報を預けた先が破られていました。 預け先を一覧にしておけば、事故が報じられたその日に、自社が関係あるかを判断できます。