自宅の地震計が公式より1階級高く揺れた理由を、道路工事のボーリング記録まで遡って調べた
- ⏱ 約9分で読めます - 👁 … viewsずっと前から、ひっかかっていたことがあります。家は確かに揺れたのに、ニュースを見ても自分のところの震度が出てこない。 近隣の市に震度1や2がつくだけで、うちの市は何も出ない。一度や二度ではなく、しょっちゅうでした。そもそも地震計(Raspberry Shake、RS4D)を 2017年に買った のも、その後計測震度を計算するアプリを作ったのも、動機は同じ。公式を待たず、自分の家が何震度で揺れたかを自分で測りたかったからです。それでも、なぜ公式とこんなに食い違うのかは、ずっと宿題のままでした。
その宿題に本腰を入れるきっかけが、6月26日の夜の地震です。山梨県東部・富士五湖でM5.6、最大震度6弱。うちの地震計(静岡県三島市、観測点コードはAM.R38DC)も計測震度4.65、震度階級でいう5弱を記録しました。ところが翌日の気象庁発表では、**公式の「三島市」は震度4。**同じ市内で1階級ちがう。いつもの「揺れたのに出ない」が、今回は「公式より大きく出た」という数字で比べられる形で現れた。これはちょうどいい、長年の違和感を一度きちんと掘ってみよう、と思いました。
最初は「うちの地震計が出しすぎなのでは」と疑いました。でも調べるうちに、計器の異常ではなく地面そのものの違いだと分かってくる。その裏を取るために、最後は道路工事の地質調査記録まで掘ることになります。深掘り、と言いつつ、ほんとうに地面を深く掘った記録です。半分は探偵ごっこ。
まず「どこと比べているのか」をはっきりさせる
「公式の三島市」と一口に言っても、震度計は市内のどこか一点に置かれているはずです。そこを特定しないと比較になりません。
気象庁の震度観測点一覧を当たると、三島市の公式観測点は東本町2-5-24、旧・三島測候所(いまは無人化されて「三島特別地域気象観測所」、アメダスも兼ねている)でした。緯度経度は北緯35.1133度・東経138.9250度。標高はおよそ21メートル、三島駅の南東で、市街地のど真ん中です。
一方うちの地震計は、そこから北北東に約3.3キロ。箱根の西の麓、市街地より一段高い斜面にあります。
地図の上で3.3キロ。近いといえば近い。でも「同じ三島市」とひとくくりにできるほど近くもない。問題は、この3.3キロのあいだに何があるか、でした。
地質図を引いてみたら、地面が「逆」だった
「うちと三島の市街地では、たぶん地面が違う」。これは前々から薄々感じていました。うちは箱根の山際、市街地は富士山の伏流水が湧く平地。同じ市でも土地の成り立ちが違うはずだ、と。そこで以前から自分でも、産総研の「シームレス地質図V2」で両地点の地質を調べていました。緯度経度を投げると、その地点の地質をコードで返してくれるサービスです。ブラウザで眺めるだけでなく、URLに座標を付けて叩けば機械的に答えが返る。手元にあったコードはこうでした。
- うち(地震計)
Q32_vas_ap= 後期更新世中期の「デイサイト・流紋岩 大規模火砕流」 - 三島の公式観測点
H_v_ad= 完新世の「火山岩 岩屑なだれ堆積物」
専門用語が並びますが、要点はひとつ。揺れやすさの向きが、2地点で逆だった。
一般に、地面は軟らかいほどよく揺れます。布団の上で飛ぶと畳の上より大きく弾むのと同じで、軟らかい層が厚いと地震波が増幅される。火砕流の堆積物(うち)は、固く溶け固まっていなければ軽石や火山灰が主体でスカスカ=軟らかい側。対する岩屑なだれ堆積物(三島)は、火山の岩塊がごろごろ混じった、わりと締まった地面です。
つまり地質図のうえでは、「うちのほうが軟らかくて揺れやすい」。公式より1階級高く出たことと、ちゃんと辻褄が合う向きでした。
「地表の地質」と「地下の正体」は別物だった
ここで、自分のなかで引っかかっていたことを口に出してみました。地質図をよく見ると、三島の観測点のすぐ北側に、別の地質ユニットが帯のように走っている。完新世の玄武岩質の溶岩で、富士山から流れ下って三島の市街地まで達した三島溶岩流にあたります。観測点の地表に塗られているのは岩屑なだれ堆積物だけれど、すぐ北にこの溶岩がある以上、地下の基盤はそっちなんじゃないか。これは今回の調査でいちばん面白かった見立てになりました。
三島が湧水の町なのは、この溶岩流のおかげです。柿田川や源兵衛川のあの透き通った水は、富士山に降った水が溶岩のすきまを潜って、三島で湧き出してくる。つまり三島の地下には溶岩がある。これは地元の地形を見れば、もとから分かっていたことでした。
言い換えると、地質図が地表に塗っている「岩屑なだれ堆積物」はごく薄い表面の皮で、その下の本体は硬い溶岩。だとしたら、三島の観測点は見た目より硬い地面に立っていて、だから揺れにくい。筋は通っています。あとは、それが本当かどうか。
地質図は「地表に何があるか」しか塗ってくれません。地下がどうなっているかは、別の手段で確かめるしかない。そこで、ボーリング記録の出番になりました。
道路工事の地質調査が、地下を見せてくれる
地下の地層を直接知るには、ボーリング(細い穴を掘って、出てきた土を深さごとに記録した「柱状図」)を見るのが確実です。問題は、個人がそんなものをどこで手に入れるか。
ここで使えるのが、土木研究所が運営する KuniJiban(国土地盤情報検索サイト)でした。国が発注した道路や河川の工事では、必ず地質調査をします。そのボーリング記録が、地図つきで公開されている。道路を一本通すために、足元の地面を深さ数十メートルまで調べた記録が、誰でも見られる形で残っているわけです。
このサイトの地図ビューアは、裏側で地図のタイルごとにボーリング点を返すAPIを叩いています。そこに座標を投げて、観測点の近くにボーリングがないか探しました。
三島の観測点のすぐそばで、2本見つかりました。国道1号の南二日町交差点の地質調査のものです。柱状図を開いて、息を呑みました。
表土はわずか1メートル。その下から、掘り抜いた孔底(深さ38メートル)まで、ほぼ全部が「軟岩・風化岩」。
**表面の皮を1枚めくったら、すぐ下から硬い岩盤(溶岩)が連続していた。**北側にある三島溶岩流が、観測点の足元の浅いところまで来ている。「地表の地質と地下の正体は別」という見立ては、ボーリングの実データでそのまま裏が取れました。三島の観測点は、薄皮の下が溶岩。だから揺れにくい。
では、うちの足元は?
同じことを、うちの地震計の周りでもやりました。箱根西麓の斜面なので、KuniJibanにデータがあるか半信半疑でした。あったどころではなく、128本。
種を明かすと、うちのすぐ近くを 伊豆縦貫道(東駿河湾環状道路)が通っています。高速道路を山の斜面に通すには、地面を徹底的に調べる必要がある。その地質調査のボーリングが、路線に沿ってびっしり打たれていたのです。徳倉地区、塚原地区、岡宮、いずれも国土交通省沼津河川国道事務所の発注です。地震とはまったく関係ない道路工事の記録が、自分の地震計の足元を教えてくれることになりました。
うちに近く、標高も近い柱状図を読むと、三島市街地とは構造がはっきり違いました。
標高130メートル前後の地点では、火山灰質のローム(火山灰が風化した軟らかい土)が7〜12メートルも厚く積もっていて、その下にようやく溶岩(岩盤)が累なって出てくる。
三島の観測点が「表土1メートルで溶岩」だったのと、対照的です。うちの足元は、軟らかいローム層がぶ厚い。揺れを増幅しやすい地面そのものでした。
しかも面白いことに、ボーリングを標高順に並べると、地層がきれいに対応していました。標高が高い斜面の上ほどローム層が厚く、低いところほど溶岩が浅い。近くて標高が同じなら、地質はほぼ同じと見ていい。そう外挿できるだけの規則性が、実データに出ていました。ちょうど近所に三島加茂IC(地元の字名から「賀茂インター」)があり、そのそば143メートルのボーリングも標高130メートルで、うちの推定とぴたり重なりました。
結論:計器のせいではなく、地面のせいだった
ここまでで、2地点の地下が出そろいました。
| 三島市の公式観測点 | うちの地震計 | |
|---|---|---|
| 場所 | 市街地・東本町 | 箱根西麓の斜面 |
| 標高 | 約21m | 約130m |
| 表層 | 表土1m | ローム・火山灰質土が7〜12m |
| すぐ下 | 溶岩盤(硬い) | 溶岩は厚いローム層の下 |
| 6/26の震度 | 4 | 5弱(計測震度4.65) |
うちが1階級高く出たのは、地震計が出しすぎたからではなく、ぶ厚い軟らかいローム層の上に立っていて、揺れが増幅されたから。三島の公式観測点は、薄皮の下がすぐ溶岩で揺れにくい。同じ「三島市」でも、3.3キロ離れれば足元の地面は正反対でした。
厳密な地震工学の評価ではありません。「軟岩」が溶岩だと土質名だけで言い切れるわけではないし、設置の仕方も多少は効くでしょう。それでも地質図とボーリングという二つの独立した証拠が同じ向き(うちのほうが揺れやすい)を指していて、自分としては十分納得のいく説明になりました。うちの計測震度は「地域の代表値」ではなくよく揺れる一地点の値で、公式と食い違っても矛盾ではなく別の地面の別の記録、ということです。
調べていて楽しかったこと
「地面が違うはず」という勘も、シームレス地質図でコードを引いたのも、「北側に溶岩があるから地下の基盤はそっちでは」という肝の見立ても、そこまでは自分でした。でも、その先の裏取りは Claude Code との二人三脚です。KuniJibanの地図タイルを総当りしてボーリングを探し、Shift_JISで文字化けする柱状図XMLから深さと土質を拾い、標高順に並べて地層の対応を見る。思いつきを片端から手を動かして確かめる泥くさい作業を、会話しながら一気に進められた。見立てをその場でデータに当ててすぐ裏が取れる。この近さがなければ、「地下は溶岩だろう」という推測どまりで止まっていたと思います。それを道路工事のボーリングという物証まで詰められた。高速道路を通すために誰かが昔掘った地面の記録が、趣味の地震計の数字を裏付けてくれる。別の目的で作られたデータ同士が噛み合う瞬間が、調べものの醍醐味です。
長年の「うちだけ揺れる」は、気のせいではありませんでした。うちはほかより揺れやすい地面の上に立っている。それだけのことだけれど、ずっと宿題だったものに答えが出せてすっきりしました。地面は思っていたよりずっと多弁です。3.3キロ離れただけで、こんなに違う話をしている。足元を掘ってみるものです。