Fable 5の取り下げより、Opus 4.8が「使えない」ことの方が深刻だと思う
- ⏱ 約9分で読めます - 👁 … viewsここ数日、AI界隈のタイムラインはClaude Fable 5の話で持ちきりです。国家安全保障上の懸念で無期限停止になった、Max x20を課金した直後だったのにどうしてくれる。そういう怒りと困惑の投稿が、RedditでもXでも何千という単位で伸びています。気持ちは分かります。お金を払った直後に使えなくなったら、誰だって声を上げたくなる。
でも、私はこっちのほうがずっと気になっています。いま現役で使われているはずのOpus 4.8が、ツールを呼んでも実行されない状態になっている、という問題です。Fable 5が「使えるはずだったものが取り下げられた」話だとすれば、Opus 4.8は「使っている最中のものが壊れている」話。日々の仕事で実際に手を動かしている人間にとっては、後者のほうが明らかに実害が大きいと感じています。

先に全体像を一枚にまとめておきました。細かい話は本文で順に追いますが、急いでいる人はこの図だけでだいたい掴めると思います。
結論から先に言ってしまうと、Opus 4.8にはツール呼び出しが<invoke>というタグの生テキストになって、何も実行されないまま素通りするバグがあります。しかも一過性のトラブルではなく、5月28日のリリース直後から始まって、6月中旬の今もGitHubのIssueとして増え続けている。もちろん私もissue発行しました。だって使えないといろいろ困りますから。Fable 5の騒動に注目が集まっている裏側で、もっと地味で、もっと困る問題が静かに進んでいます。今日はその現在地を整理しておきます。
まず、どういう症状なのか
普通、AIエージェントがファイルを読んだりコマンドを走らせたりするときは、内部的に「ツール呼び出し」という構造化されたデータをやり取りしています。ユーザーの画面には出てこない、裏方の信号のようなものです。これがきちんと送られると、ツールが実行されて結果が返ってくる。
ところがOpus 4.8では、この裏方の信号がそのまま表の文章として吐き出されてしまうことがあります。具体的には、<invoke>で始まるXMLっぽいタグが、ターミナルやチャット欄に生のテキストとして表示される。AIは「ツールを呼んだつもり」になっているのに、ハーネス(Claude Codeなどの実行環境)はそれをただの文章としか認識できない。結果、ツールは実行されず、作業は一歩も進みません。
リトライしても直らないことが多く、しばらく粘っても<invoke>が出続けるだけ。最終的に「The model’s tool call could not be parsed (retry also failed)」、つまり「ツール呼び出しを解釈できなかった、リトライも失敗した」というエラーで止まります。
これがいちばんタチが悪いのは、エラーで派手に落ちてくれないところです。AIは平然と「やりました」という顔をして、実際には何もしていない。気づかずに次の指示を出すと、存在しないはずの作業の上に積み重ねていくことになります。
原因はだいたい分かってきている
幸い、原因の輪郭は見えてきています。GitHubのIssueでの解析を読むと、stop_reason: tool_useという「ツールを呼ぶべきターン」で、モデルが構造化されたブロックの代わりにレガシーな<invoke>形式のXMLテキストを生成してしまうのが根本原因のようです。ときどき余計なトークンが混入したり、本来あるべきantml:というプレフィックスが落ちたりして、パーサーが解釈に失敗する。
さらに6月に入って分かってきたのが、この崩れが**「セッションの長さ」より「ツールの合成度」と相関する**ということです。MCPツールをたくさん組み合わせた複雑なセッションほど、<invoke>崩れが出やすい。長く会話したから壊れるのではなく、込み入った道具立てで作業させると壊れる。これは再現条件としてかなり重要な手がかりです。
もうひとつ、/compact(会話履歴の圧縮)を実行した直後に発火しやすい、という報告もあります。長い作業の途中でコンテキストを整理しようとすると、その直後からツール呼び出しが<invoke>テキスト化する。皮肉なことに、長丁場をうまく回そうとする操作が引き金になっているわけです。
いつ頃から、どう増えてきたのか
ここからは時系列で整理します。「何が起きていたのか」を後から振り返れるよう、記録として残しておきます。
5月28日、Opus 4.8がリリースされ、即日で「壊れてる?」が立ちました。当日にはもうHacker Newsに「Ask HN: Is Claude Opus 4.8 broken?」が立ち、Redditのr/Anthropicには「Opus 4.8 nerfed??」(劣化したのか?)というスレッドが959ポイントを集めている。発表と同時に火が点いた格好です。ただしこの最初の波は、まだ<invoke>崩れのような具体的な技術症状ではなく、「なんか頭が悪くなった気がする」という体感ベースの劣化論が中心でした。
6月初旬になると、報告の質が変わっていきます。6月1日前後にトークンの異常消費への修正がClaude Code側に入り、これと前後して「medium設定なのに46kトークンを隠れた思考に浪費する」「使用量が以前の2〜3倍に膨れた」といった、再現手順つきの技術的なIssueが積み上がり始めました。体感の不満から、具体的なバグレポートへ。
そして6月中旬、ここが今回の本題です。当初はひとつの「malformed tool_use」バグとして見られていたものが、症状ごとに別々のIssueへ枝分かれしていきました。/compact後に発火するもの、込み入ったツール構成でプレーンテキスト化するもの、XMLタグ名そのものが破損してantml:invokeが生表示されるもの。番号の若いIssueが連番で立ち続けています。新しい番号ほど後から報告が続いているわけで、ピークアウトの兆候はまだ見えません。
6月10日には「幻のツール呼び出し」が検証されました。ある利用者が生のJSONLログを精査したところ、モデルが「ツールを実行した」と主張したのに、ログには対応するブロックが一切存在しない、完全な幻の呼び出しが確認されたのです。<invoke>がテキスト化する症状の、さらに先の段階。タグすら出さずに「やった」とだけ言う。
そして6月中旬の今も、デスクトップアプリの最新版で「tool call could not be parsed (retry also failed)」がまだ再現するという報告(タイトルに"still reproduces"と入っています)が出ています。修正版が出ても、ユーザーの手元では収まっていない。
なぜFable 5より深刻だと思うのか
ここで冒頭の問題意識に戻ります。Fable 5の停止は、たしかにショッキングなニュースです。課金した直後に使えなくなった人がいるのも事実で、怒るのは当然だと思います。でも構造としては、これは「手に入るはずだったものが、手に入らなくなった」話です。期待していた選択肢がひとつ消えた。痛いけれど、別のモデルで仕事は続けられます。
Opus 4.8の<invoke>崩れのほうは、「いま手に持って使っている道具が、握っている最中に壊れる」話です。しかも壊れ方が静かで、AIは「できました」という顔をしてくる。やっかいなのは、ツールをたくさん組み合わせる複雑な作業、つまり本当にエージェントの価値が出る作業ほど壊れやすいこと。任せたい仕事の核心部分で、いちばん信頼できなくなる。選択肢がひとつ減るのとは、わけが違います。
タイムラインの盛り上がりという意味では、Fable 5のほうが圧倒的に目立っています。Redditで何千ポイントも集めているのはFable 5関連のスレッドで、Opus 4.8の<invoke>崩れは表舞台では沈静化したようにすら見える。でも、それは騒ぎが収まったわけではなく、議論の場がXやRedditからGitHubのIssueトラッカーに移っただけなんですよね。声の大きさと問題の深刻さは、必ずしも一致しない。
いま現場でできること
では実際に困っている人はどうすればいいか。報告されている範囲で、確実性が高いのは身も蓋もない対処です。
いちばん効くのは、Opus 4.7に退避することです。同じシステムプロンプト、同じMCP構成のまま4.7に切り替えると、<invoke>崩れがぴたりと止まる、という報告が複数あります。「最新版が常に正解とは限らない」とは、こういう局面のための言葉だなと思います。仕事で安定して回したいなら、無理に4.8を使い続ける理由はありません。
次に、/compactを多用しないこと。圧縮直後に発火しやすいなら、長い作業でも安易にcompactを挟まず、セッションを分けるほうが安全な場合があります。
それから、ツールの組み合わせをシンプルに保つこと。込み入った構成で壊れやすいなら、一度に欲張らないことで回避できる余地があります。根本解決ではありませんが、再現条件を避けるという意味では効きます。
そして何より、AIが「やりました」と言っても鵜呑みにしないこと。<invoke>崩れも幻のツール呼び出しも、共通しているのは「実行していないのに完了したと言う」点です。重要な作業ほど、ビルドやテストが本当に走ったかを自分の目で確かめる。当たり前のことですが、いまのOpus 4.8ではこの当たり前がいつにも増して効きます。
おわりに
派手なニュースは目を引きます。Fable 5の停止は、確かに語りやすいドラマです。でも、毎日エージェントに手を動かしてもらっている身からすると、本当に困るのは「握っている道具が静かに壊れていること」のほうです。声の大きさではなく、自分の仕事にどう響くかで問題の大きさを測りたい。
あなたがもしいまOpus 4.8で「なんか作業が進まないな」と感じているなら、それは気のせいでも腕のせいでもないかもしれません。一度、4.7に戻してみてください。それで直るなら、原因はあなたではなく、モデルのほうにあります。