日本列島はこの1年でどれだけ動いたか。電子基準点1083局で測ったら、最大は87cmだった
- ⏱ 約9分で読めます - 👁 … views7月28日の熊本地震のあと、東北の太平洋側で地震が減ったように感じていました。去年の暮れから青森や三陸の沖で大きな地震が続いていたのに、最近は地震情報に東北の名前をあまり見かけない。
数えてみると、減ってはいませんでした。東北の太平洋側で揺れた地震は、熊本地震の前も後も月30件前後です。変わったのは一覧のほうで、熊本の余震が7月と8月に毎月300件近く加わり、東北の占める割合が4分の1から1割未満に下がっていただけでした。
では、揺れの回数ではなく地面そのものはどうなのか。国土地理院の電子基準点の座標を、全国1083局について1年分並べてみました。
この1年でいちばん動いたのは熊本県八代市の千丁(せんちょう)観測点で、北東へ87cm。そのほぼ全部が7月28日の本震の一瞬で動いた分です。次が青森県と岩手県の太平洋岸で、東南東へ9〜15cm。大きな地震のなかった地域は、おおむね西北西へ年に数cm動いていて、うちの地震計がある箱根の西麓もその一つでした。
地面の動きをどうやって測ったか
電子基準点は、国土地理院が全国に置いているGNSS(GPSなどの衛星測位)の観測点です。毎日の座標が公開されていて、同じ局の座標を日付を変えて比べれば、その間に地面がどちらへ何cm動いたかがわかります。
今回使ったのは、米国ネバダ大学のNevada Geodetic Laboratory(NGL)が電子基準点のデータを解析して公開している日々の座標です。登録なしで取得でき、局ごとのファイルから直近の部分だけを切り出せるので、全国分でも手元で扱えました。
比べたのは、2025年8月前半の2週間の平均と、2026年8月前半の2週間の平均です。座標は季節によって数mm上下するので、1年後の同じ季節どうしを比べて、その揺れを打ち消しています。
もう一つ、基準の置き方が要ります。衛星測位の座標は地球全体を基準にしているので、そのまま並べると日本列島が丸ごと東へ流れて見えます。長崎県五島の福江観測点自体が、地球全体の基準では1年で東へ2.8cm動いていました。そこで福江を動かない点として固定し、そこから見た動きを矢印にしています。

左の図の青い矢印が水平の動き、茶色の矢印は12cmを超えた局(長さは12cmで打ち切り)です。右の図は上下の動きで、赤が隆起、青が沈下です。
熊本の87cmは、いつ動いたのか
千丁の1年間の動きは、北東へ87.0cm、沈下34cmでした。一方、熊本地震の本震の前10日間と後3日間だけで比べると87.3cmです。1年分の動きのほとんどを、あの本震の一瞬が占めていたことになります。
地震調査委員会が8月12日に公表した評価でも、千丁観測点は北東方向に約87cm移動したとされていて、同じ値でした。

本震の前後だけを取り出すと、動き方の形が見えます。断層の北西側にある千丁や城南は北東から北へ、南東側の泉や球磨は南から南南西へ動いていて、断層を挟んで向きが逆です。委員会の評価にある「右横ずれ」と合う動き方でした。
同じ方法で2016年の熊本地震も計算してみました。こちらは阿蘇側の長陽観測点が南西へ101cm動いたのが最大で、図だけ見ると2026年と逆向きに動いたように見えます。ところが、両方の地震で動いた21局を同じ局どうしで比べると、向きが反対になった局は一つもありませんでした。いちばん長い矢印が、2016年は南西へ動く側の局、2026年は北東へ動く側の局だったので、逆に見えただけです。
東北の太平洋岸はどちらへ動いたか
青森県と岩手県の太平洋岸の18局は、1年で東南東へ9〜15cm動いていました(中央値12cm)。向きは海溝のある沖の方です。上下は中央値で2cmの沈下でした。
この1年、この沖では大きな地震が2回起きています。2025年12月8日の青森県東方沖の地震(M7.6)と、2026年4月20日の三陸沖の地震(M7.5)です(Mは気象庁の発表値)。
東北で揺れた地震の回数は、熊本地震の前後で変わっていませんでした。けれど地面のほうは、この1年で12cm動いていたわけです。
少し南の宮城県と福島県の沿岸は、様子が違います。水平は東へ2cm程度(中央値)と小さく、上下はむしろ隆起していました(中央値1.5cm、最大3cm)。同じ東北の太平洋岸でも、北は沈み、南は持ち上がっています。推測ですが、南側の隆起は2011年の東北地方太平洋沖地震のあとに続いている動きかもしれません。今回の計算では確かめていません。
大きな地震のなかった地域の動き
大きな地震のなかった地域では、矢印がそろって西北西を向いています。北海道東部が1年で4.5cm、四国と紀伊半島の太平洋岸が3cm、関東が3cm(いずれも中央値)。中国地方は1cm前後で、ほとんど動いていません。太平洋側の沖にある海溝からプレートが沈み込み、陸を押している動きとして一般に説明されているものです。
うちの近くの局では、裾野2が3.1cm、函南が3.3cm、沼津が3.5cmで、向きはどれも西北西でした。

伊豆と箱根の周辺だけ、2023年1月から熊本地震の前日までの3年半で年間の速度を出したのが上の図です。自局周辺は年3.3〜3.5cmで、この1年の3cm余りとほぼ同じでした。毎年この速さで西北西へ動いていることになります。伊豆半島の南端は年4〜5cm、伊豆大島は年5cm近くと、南東へ行くほど速くなります。
この動きが止まらなかったら、列島はどんな形になるか
年に数cmでも、止まらずに続いたらどうなるのか。大きな地震の少なかった2022年4月から2023年12月の平均速度を466局で求め、海岸線の各点をその速度のまま動かしてみました。縮尺は拡大していません。

100万年たっても、多くの場所で動くのは数十kmです。列島の長さが2000km近くあるので、形はまだ現在とほとんど重なっています。
300万年後になると、違いがはっきり出ます。北海道の東端の根室は年5.7cmで西へ動いていて、300万年で170km余り。道東が中央部へ押し寄せ、北海道は東西に縮みます。
四国の室戸岬は年4.5cmで、中国地方の岡山(年0.6cm)より速く動いています。両者は年1.45cmずつ近づくので、300万年で約44km。瀬戸内海が狭まり、四国が中国地方に寄っていきます。伊豆半島の南端は西北西へ110km、うちのある箱根の西麓もほぼ西へ85km移ります。
東北の太平洋側だけは向きが逆で、南東へ張り出していきます。推測ですが、これは2011年の東北地方太平洋沖地震のあとに続いている動きを、そのまま延ばしたためだと思います。地震の前の東北は、ほかの地域と同じく西北西へ押されていたと一般に言われています。
実際には、この速度が何十万年も続くことはありません。西日本が西北西へ押し込まれて蓄えたひずみは、南海トラフの巨大地震のたびに解放されて大きく戻ると説明されています。陸地どうしが重なって描かれている場所も、本当なら隆起して山になるか、断層でずれるはずです。この図は水平の動きだけを延ばした思考実験で、隆起や沈降、浸食、海面の変化は入れていません。
能登半島の先端は今どう動いているか
2024年1月の能登半島地震から2年半以上たちますが、半島の先端はまだ沈み続けていました。この1年で珠洲が3.2cm、輪島が2.2cm沈下しています。
地震前(2017〜2019年)の動きを差し引いて、2024年2月から2026年7月の平均で見ると、珠洲の沈下は年4.4cmでした。この1年の3.2cmはそれより小さく、沈む速さは落ちてきています。
茨城県南部の地震で、地面は動いたか
8月23日の茨城県南部の地震(M5.9、最大震度5弱)は、この夜の記録にも書いた地震です。この地震で地面が動いたかどうかも、同じ方法で確かめました。
震央から5〜21kmの局を見ても、地震の前後の水平の変化は0.4〜1.6mmで、向きもばらばらでした。周辺52局の中央値は0.9mm。地震のない8月上旬で同じ計算をしても中央値1.1mmが出るので、観測のばらつきと区別がつきません。
震源が深さ70kmと深く、規模も熊本の本震よりずっと小さいためです。ざっと見積もると、地表の動きは0.5mm程度で、日々の座標のばらつきより小さい量になります。
数字はどこまで確かか
計算の途中で、国土地理院が自分で解析した座標(F5解、F5.1解)とも突き合わせました。
- 熊本地震の千丁は、NGLで87.3cm、国土地理院で87.1cm
- 2016年熊本地震の長陽は、NGLで101.3cm、国土地理院で101.2cm
- 伊豆と箱根周辺の24局の年間速度は、水平の速さの相関係数が0.996
水平の動きは、解析した機関が違っても1cm以内でそろいました。
上下は事情が違います。伊豆と箱根周辺では、同じ局でもNGLと国土地理院で年間の上下速度が最大7mm余り食い違いました。上の図の上下の色は、傾向を見る程度にとどめておくのがよさそうです。
もう一つ、茨城県の石下(いしげ)観測点だけが、この1年で11cm沈んでいます。2026年4月以降に下がり始めていて、近くの局は動いていません。地下水のくみ上げのような局所的な沈下なのか、観測上の問題なのか、原因はまだわかっていません。
揺れた回数と、地面が動いた距離
東北の地震が減ったように見えたのは、熊本の余震が地震情報の一覧を埋めていたからでした。けれど地面の座標で見ると、東北の太平洋岸はこの1年で12cm動き、熊本では本震の一瞬で87cm動いた場所がありました。うちの足元も、揺れを感じない日も含めて1年で3cm、西北西へ運ばれています。
来年の8月に同じ図を作ったら、青森と岩手の沿岸の矢印は短くなっているでしょうか。
データ:電子基準点の日々の座標はNevada Geodetic Laboratoryの解析値(IGS20)です。照合には国土地理院 電子基準点データ提供サービスの値を使いました。熊本地震の評価は地震調査委員会「令和8年熊本地震の評価」(8月12日公表)によります。