緊急地震速報が鳴った夜に、手元の記録を見返す
- ⏱ 約7分で読めます - 👁 … views2026年8月23日午前2時ちょうど、茨城県南部を震源とするM5.9の地震が発生しました。最大震度5弱。首都圏の広い範囲で緊急地震速報が鳴った夜です。
そのとき自分はまだ起きていました。速報が鳴り続ける中で観測プログラムを開くと、自局の計測震度表示が震度1から震度2へ切り替わるところを目にしました。体感は「ドンッ」という突き上げではなく、ゆらゆらと長く続く揺れ。翌日、手元のログを見返すと、あの切り替わりが何を意味していたのかが数字として残っていました。
何が起きたか
気象庁発表の概要です。
- 発生時刻: 2026年8月23日 2時00分頃
- 震源地: 茨城県南部(北緯36.0度、東経140.1度)
- マグニチュード: M5.9
- 震源の深さ: 約70km
- 最大震度: 5弱
震度5弱を観測したのは以下の地域です。
茨城県(10市町村): 小美玉市、古河市、龍ケ崎市、下妻市、常総市、取手市、牛久市、つくば市、筑西市、つくばみらい市
埼玉県(4市町): 川口市、蕨市、戸田市、宮代町
千葉県: 浦安市、印西市
東京都: 足立区
震度4はさらに広い範囲に及び、福島県から関東6都県にまたがりました。気象庁は津波の心配はないとした一方、「今後1週間程度は最大震度5弱程度の揺れに注意」と呼びかけています。
震源の茨城県南部から川口市までは、震央(震源の真上の地表点)からの直線距離でおよそ40km。震源そのものまでの距離(震源距離)で考えると、真上の地点で70km、川口市で約81km。水平に40km離れても、震源までの距離は16%ほどしか伸びません。震源が深さ70kmと深いぶん、地表のどの地点も震源からの距離があまり変わらなくなり、揺れが遠くまで「面」で広がりやすくなります。震度5弱が茨城県内陸部と川口市の両方に及んだのは、この構造によるものです。
なぜ「ゆらゆら」だったのか
体感として残っているのは、突き上げるような衝撃ではなく、ゆっくり長く続く横揺れでした。震源から離れた場所でこうした揺れになるのは、地震波の伝わり方として自然なことです。地震波のうち高い周波数の成分は伝わる距離が長くなるほど減衰しやすく、低い周波数のゆっくりした成分ほど遠くまで届きます。震源距離が長い観測点では、相対的にゆっくりした揺れとして感じられやすくなります。
これとは別に、気象庁は今回の地震で、東京23区、千葉県北西部、埼玉県南部において「長周期地震動階級2」を観測したと発表しています。長周期地震動は、周期2〜8秒程度のゆっくりした揺れが高層建物で増幅される現象で、階級は4段階(1〜4)に分かれ、階級2は「物につかまりたいと感じる」程度とされています。これは体感の説明とは異なり、関東平野の3地域という特定の場所・特定の指標についての、気象庁による公式発表です。静岡の自局で感じた揺れそのものを指すものではありません。ただ、どちらも震源から離れた場所でのゆっくりした揺れという同じ性質の現れ方です。
震源のすぐそばでは、震度4相当だった
静岡の自局が何を記録していたかを見る前に、震源にごく近い場所ではどう揺れていたかを見ておきます。震源からの距離が変われば、同じ地震でも揺れの現れ方は変わるはずだからです。
茨城県牛久市に設置されている、第三者運用のRaspberry Shake公開観測点「RDBC2」のデータを見てみました。震源からの水平距離はわずか6km、震源距離では70kmです。同じ解析条件で計算すると、最大加速度は114.7gal、計測震度は4.42(震度4相当)でした。気象庁発表の牛久市の震度は5弱で、この解析値とも大きく矛盾しません。
震源近くでは、揺れが瞬間的に、強く立ち上がっていました。
自局のログを見返す
首都圏で長周期地震動が観測された夜、自分の観測点(静岡県内、海岸から約20km、標高120m、Raspberry Shake型地震計「R38DC」)は何を記録していたか。翌日、ログを見返しました。
R38DCから震源までは、水平距離143km、深さとあわせた震源距離は160kmです。RDBC2の震源距離70kmに対して2倍以上遠く、それでも自局のリアルタイム検知システム(STA/LTAという方式でノイズと地震動を区別する仕組み)は、この地震にちゃんと反応していました。
このシステムの計測震度は、直近90秒間の波形を窓として、地震動を検知したタイミングと、その後は5秒おきに再計算し続ける値です。値が動いている間はまだ確定ではなく、変化が止まって初めて確定値とみなせます。画面の数字が震度1から2へ動いたのを見た時点では、だからまだ確定ではありませんでした。翌日ログを見返して、あの動きが窓のどこまで進んだ結果だったのかを追いました。
ログに残っていた時系列は、次のようなものです。
- 02:01:02 STA/LTAトリガが検出、この時点の90秒窓での計測震度はI=0.98(震度1相当)
- 02:01:20頃 最大加速度(PGA)がピーク、6.02gal
- 02:01:26頃 90秒窓での計測震度がI=2.15(震度2相当)に到達
震源距離160kmでは、最初に届く小さな揺れ(初期微動、P波による)と、あとから来る本体の揺れ(主要動、S波による)の到達に数十秒の差があります。トリガが確定した02:01:02の時点では、まだ主要動は窓に入っておらず震度1相当でした。その後、主要動が窓に入るにつれて数値が伸び、震度2相当まで上がっていました。あの夜、画面越しに見ていた震度1から2への切り替わりは、ログの上でも同じ経過として残っていました。

波形の3成分(上下動、東西動、南北動)すべてで、初期微動から主要動への立ち上がりが見て取れます。図中の縦線は、赤がSTA/LTAトリガの検出時刻(02:01:02)、紫が最大加速度(PGA)到達の時刻(02:01:20頃)です。
自局の6.02galは、震源近くのRDBC2の114.7galと比べて約19分の1です。同じ地震が、距離によってまったく違う顔を見せていました。
公的観測網が見せてくれないもの
気象庁の震度は、市区町村ごとに設置された観測点の値です。同じ市内でも、地盤の違いで実際の揺れ方は変わります。川口市全体が「震度5弱」と発表されても、それは観測点1点の値であり、市内のどの建物も同じ強さで揺れたわけではありません。
事業所や工場が自前でIoT地震計を設置する意味は、ここにあります。気象庁の震度は面的な把握には十分ですが、「自分の建物」がどう揺れたかは教えてくれません。設備の稼働継続可否や、避難判断の材料として使うなら、その場所の実測値が要ります。
震度2相当という自局の記録自体は、何かの判断を左右する数字ではありません。ただ、気象庁が「今後1週間程度」の注意を呼びかけている以上、次に大きな揺れが来たときに自分の建物がどう反応するかを、平時のうちに知っておく価値はあります。
速報が鳴っている夜に画面で見ていた震度1から2への切り替わりは、翌日ログを見返して、主要動が90秒の窓に入ってくる過程だったと分かりました。記録した波形に同じ計算を当て直すと、震度2は02:02:50頃まで続き、そこから02:03頃には震度1へ、02:04頃には震度0へと、段階を追って下がっていました。その下がり方は見ていません。あのときはテレビでNHKの速報に切り替えていて、次に画面を見たときにはもう0になっていました。
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