役員が変わらない一人会社ほど忘れやすい、任期満了の登記と休眠会社の通知
- ⏱ 約7分で読めます - 👁 … views法務局から封筒が届きました。 封筒を見て、最初に思ったのは「何これ?」でした。
中に入っていたのは、休眠会社のみなし解散に関する通知です。 事業は続けています。 それでも、期限内に手続きをしなければ、会社は解散したものとみなされる、という内容でした。
原因は、取締役の任期が満了したときの登記をしていなかったことです。 一人会社で、役員も株主も変わっていなかったので、登記が必要だという認識がありませんでした。 制度そのものを知らなかったので、いまは慌てています。
何が起きたか
通知書を読んでも、最初は「どういうこと?」と思いました。
会社の名前、本店の所在地、役員などは、法務局の登記簿に記録されて公開されています。 内容が変わったときは、会社が申請して記録を書き換えてもらいます。 この手続きを登記といいます。
株式会社は、最後の登記から12年が経つと休眠会社として扱われます(会社法472条)。 法務局は毎年、この休眠会社を整理する作業をしています。 法務大臣が官報(国が発行する広報紙)で対象の会社を公告し、法務局から各社に通知書が届きます。
公告から2か月以内に「まだ事業を廃止していない旨の届出」をするか、何らかの登記をしないと、その会社は解散したものとみなされます。 期限を過ぎると、登記官が職権で解散の登記をします。 通知書が何らかの理由で届かなくても、公告から2か月以内に届出か登記をしなければ、この手続きは進められます。
判断の材料は登記の記録だけです。 実際に事業をしているか、売上があるかは関係ありません。
この整理でみなし解散となる株式会社は少なくありません。 法務省の公表によると、整理作業を毎年行うようになった2014年は約7万9千社でした。 その後も毎年1万5千社を超え、2019年は約3万3千社、2025年は25,195社でした。
なお、特例有限会社(会社法が施行された2006年より前に設立された有限会社)と合同会社は、この整理の対象になりません。 どちらも役員に任期がなく、任期満了による登記が発生しないためです。
本来何をやらなければいけなかったか
原因を調べて「え、こんなことしなくちゃいけなかったのか」と思ったのが、取締役の任期と登記の関係です。
取締役の任期と登記
株式会社の取締役には任期があります。 原則は2年です。 すべての株式について、譲渡に会社の承認が必要な会社(非公開会社)は、定款で定めれば最長10年まで延ばせます。 ただし、無期限にはできません。
任期が満了したら、同じ人が引き続き取締役を務める場合でも、株主総会で選任し直す必要があります。 そのうえで、2週間以内に役員変更の登記を申請します。 同じ人が任期満了後に再び就任することを重任といいます。
顔ぶれが変わらなくても、登記簿には取締役がいつ就任したかが記録されています。 選任し直して登記しなければ、その記録は古いまま止まります。
休眠会社の基準である12年は、取締役の最長任期10年に、猶予の2年を足した数字です。 任期を10年にしていても、10年ごとに重任の登記をしていれば、最後の登記から12年が経つことはありません。 通知も来ません。
裏を返すと、通知が来た時点で、少なくとも一度は任期満了の登記が抜けています。
一人会社で忘れやすい理由
一人会社でこの登記を忘れやすい理由は、三つあります。
一つ目は、役員が変わらないことです。 人が入れ替われば手続きが必要だと気づきますが、同じ人が続けているだけでは変更の実感がありません。
二つ目は、任期の長さです。 設立時に任期を10年にすると、次にそれを意識するのは10年後です。 10年後まで覚えておくのは簡単ではありません。
三つ目は、継続的に見ている人がいないことです。 会社の中に、総務や法務を担う人はいません。 顧問税理士がいても、税理士が見るのは決算や申告で、登記は担当外です。
何をすればいいか
期限内に出す届出
慌てていても、最初にやることははっきりしています。 期限内に「まだ事業を廃止していない旨の届出」を法務局へ出すことです。 通知書の下段が届出書になっているので、必要事項を書いて郵送するか持参します。 記載に不備があると届出として認められないことがあるので、記入漏れがないか確認してから出します。 これで今回のみなし解散は止まります。
役員変更の登記
ただし、届出で止まるのは今回のみなし解散だけです。 登記簿の記録は古いままなので、翌年の整理作業でまた対象になり、通知が届きます。
必要なのは、怠っていた役員変更の登記です。 株主総会で取締役を選任し、役員変更の登記を申請します。 一人会社なら株主も自分一人なので、決議も自分一人で行い、その内容を議事録にまとめます。 登録免許税は、資本金1億円以下の会社なら1万円です。
期限内に登記まで済ませれば、それも「何らかの登記」にあたるので、今回のみなし解散は止まります。
登記の遅れに対する過料
登記官は、過料に処せられるべき者がいることを職務上知ったときは、裁判所に通知することになっています(商業登記規則118条)。 遅れた登記を申請すれば、登記官はその遅れを知ることになります。 そのため、裁判所から代表者個人に過料が科されることがあります(会社法976条、100万円以下)。 過料は罰金ではないので、前科にはなりません。 ただし、会社の経費にはできません。
金額は、登記が遅れた期間などを踏まえて裁判所が決めるとされています。 過料を避けようと登記を先送りしても、遅れの期間が延びるだけです。
期限を過ぎてしまった場合
期限を過ぎて解散したものとみなされても、その後3年以内であれば、株主総会の特別決議で会社を継続できます。 継続を決議したら、2週間以内に継続の登記を申請します。
このとき、継続の登記だけでなく、清算人の就任や取締役の選任の登記も合わせて必要になります。 法務省の様式例にある登録免許税の内訳は、清算人等の就任が9千円、会社継続が3万円、役員変更が1万円(資本金1億円以下の場合)です。 この三つだけで合計4万9千円になります。 役員変更の登記だけで済む場合の1万円と比べ、手続きも費用も重くなります。
相談先
手続きが不安なら、法務局の登記手続案内か司法書士に相談できます。 登記手続案内は、多くの法務局で予約制です。 申請書の書き方や必要な書類について一般的な説明を受けられますが、書類の作成や事前の審査まではしてもらえません。 作成から申請まで任せたい場合は、司法書士に依頼します。
通知を受けないための予防
- 登記事項証明書(登記簿の内容を証明する書類)を法務局で取り、役員欄で最後の登記日を確認する
- 定款で取締役の任期を確認し、決算期と合わせて次の任期満了の時期を調べ、カレンダーに入れる
- 顧問税理士がいれば、任期満了の時期を伝えておく
決算期が関係するのは、任期の終わりが「選任から10年後の日」ではないためです。 任期は、選任から10年以内に終わる最後の事業年度について開く定時株主総会の終結時までと決まっています。 そのため、定款の任期と決算期の両方を見ないと、満了の時期は分かりません。
おわりに
封筒を見て「何これ?」と思ったところから始まった今回の件は、原因をたどると、取締役の任期が満了するたびに登記が必要だと知らなかったことでした。 同じ人が続投していても、選任し直して登記しなければ、登記簿の記録は止まったままです。 通知が届いたら、期限内に届出を出し、そのうえで役員変更の登記を申請します。
通知がまだ来ていない会社なら、登記事項証明書の役員欄で最後の登記日を一度確かめてみてください。 それだけで、自社がいまどの状態にあるかが分かります。
ここに書いたのは一般的な仕組みです。 自社の場合にどうすればよいかは、法務局か司法書士に確認してください。
私はというと、過料がいくら請求されるか、戦々恐々としています。