AIの文章を「効かせる」のと、「人間らしくする」のは別の作業だった
- ⏱ 約5分で読めます - 👁 … viewsブログ記事の下書きを、4つの心理学原則でレビューするツールを作りました。処理流暢性、チャンキング、カリオシティ・ギャップ、ピーク・エンドの法則。読みやすさや記憶、興味、印象にまつわる、それぞれ別の研究から借りてきた考え方です。
実際に自分のブログ記事へ適用してみると、指摘は的確でした。長すぎる一文は分割案とセットで示され、見出しは核心を明かしすぎない言い回しに変わり、記事で一番驚きのある数値は埋もれた地の文から引用ブロックへ移されました。これで文章は人間らしくなったのだろう、そう思っていました。
効き方と人間らしさは別の軸
処理流暢性という原則は、読みにくい文章は内容も怪しく見える、という認知バイアスの研究に基づきます。だから一文を短く割り、専門用語には言い換えを添える。文章を"よく効かせる"ための調整です。
では、AIが書いた文章が「AIくさい」と感じられるのは、読みにくいからでしょうか。
むしろ逆です。整いすぎているから、くさく感じられます。
太字とコロンで箇条書きにされたメリット、判で押したような「〜と言えるでしょう」という結び、感情の起伏のない均一な語尾。これらは処理流暢性の観点では減点対象になりません。読みやすいからです。
表層を消すだけでは、空白が残る
自分のスキル一式を見直していて、この切り分けがすでに別のツールとして存在していることに気づきました。定型評価語、太字コロンの箇条書き、全角ダッシュ、「することができます」といったAI特有の言い回しを検出して置き換える、4原則のツールとは独立したツールです。
役割の違いは、比べるとはっきりします。心理学の4原則は「読者の頭の中で何が起きるか」を設計する道具、表層パターンの除去は「AIが書いた痕跡を消す」道具。前者を100点にしても、後者の作業をしなければ、太字コロンの箇条書きは残ったままです。
実際に表層パターンの除去だけを試してみると、定型句を機械的に削るだけでは文章に空白が残ります。「浮き彫りにしており」を消したあとに何も足さなければ、そこには具体的な事実も、書き手の判断も残りません。人間らしさは、消去ではなく、書き手固有の体験や迷いを足すことで生まれます。パターン除去のチェックリスト自体が最後に「自分の体験を1つ入れる」「不完全さを認める」という指示で終わっているのは、消すだけでは足りないと作った側もわかっているからでしょう。
4つのツールを、なぜ1つにまとめなかったのか
今回、自分の環境には文章を扱うツールが4つあることに気づきました。論証の骨格を整えるもの、その上に緩急とリズムを設計するもの、表層のAIくささを消すもの、そして今回作った心理学レビューです。
最初はこれらを1つに統合できないか考えました。1つにまとめれば、見落としも減るはずだ。そう思ったのですが、中身を読み比べると、統合すべきではないという結論になりました。骨格を整える段階でリズムの話をするのは早すぎますし、リズムを整える段階で表層の語彙を気にするのは遅すぎます。それぞれが別の層で、別のタイミングに効く。1つにまとめると、粒度の違うチェックリストが混ざって、かえって何も見えなくなります。
代わりに必要だったのは、順番を決めて、適用漏れを防ぐことでした。骨格、リズム、表層語彙、レビューという順で通します。骨格が整っていても表層が古臭ければAIくさく見えますし、表層を消していても骨格が緩ければ読みにくくなる。どれか1つを忘れると、その層の欠陥だけが残ります。
心理モデルは「効く文章」までしか運ばない
ここまでの作業を通じてわかったのは、心理学モデルの適用は、文章を人間に近づける作業の一部でしかない、ということです。4原則は「読者にとって効率よく処理され、記憶に残り、興味を引き、良い印象で終わる」文章を作ります。人間らしさの正体である、体温のある迷いや、消えない不完全さとは、別の場所にあります。
心理学モデルが運んでくれるのは、そこまでです。残りの距離、自分の体験を書き足すこと、不完全さを認めること、迷いを文章に残すことは、モデルの外側にあります。
4つのツールを1つの順番で通すようになって、以前より「どれかを忘れる」ことは減りました。しかし、順番通りに全部通したからといって、その文章が人間らしくなる保証はありません。効き方を整えるところまではツールに任せられます。そこから先、何を書くかを決めるのは、結局のところ書き手自身の役目として残っています。
4原則を適用し終えたとき、文章は人間らしくなったと思っていました。近づいたのは、効き方のほうだけでした。
今回作った「執筆心理学レビュー」スキル(Claude Code用、SKILL.md 1本)を公開します。処理流暢性・チャンキング・カリオシティギャップ・ピークエンドの法則の4原則で下書きをレビューし、指摘と修正案を返すツールです。
~/.claude/skills/ 配下に展開すれば、Claude Codeから /writing-psych-review として呼び出せます。