地震計プログラム
やさしい解説書
Raspberry Shake という小さな地震計と、そのデータを表示するプログラムで使われる言葉・数値・しくみを、わかりやすく説明します。むずかしい知識がなくても読めます。
地震波とは 基礎
地震が起きると、地面の中を「波」が四方八方に広がっていきます。これを地震波といいます。池に石を投げたときの波紋に似ていますが、地面の中を伝わる点が違います。
地震波には大きく分けて2種類あります。次で説明します。
P波とS波 基礎
P波
震源から最初に届く波です。「P」は英語で「最初」を意味する Primary の頭文字です。揺れは比較的小さく、建物が大きく壊れることはほとんどありません。
S波
P波より遅れて届く波です。「S」は Secondary(2番目)の頭文字です。揺れが大きく、建物に被害を与えるのは主にこのS波です。緊急地震速報は「P波を捉えて、S波が来る前に知らせる」という仕組みで動いています。
このプログラムの地震検出は、P波かS波かを区別しません。「急にエネルギーが大きくなった」という変化を捉えて反応します。設定によってはP波の時点で反応できますが、設定値によってはS波が来てやっと反応するケースもあります。
震度とは 単位
震度は「ある場所でどのくらいゆれたか」を数値で表したものです。同じ地震でも、震源に近い場所は震度が大きく、遠い場所は小さくなります。気象庁が決めたルールで計算した値(計測震度・I値)をもとに、震度0〜7の階級に分けています。
計測震度(I値)の計算式
気象庁の方法では、地面のゆれの加速度(ガル)をもとに、次の式でI値を計算します(実際には波形にいくつかの補正処理を加えますが、基本的な考え方はこの式です)。I値が大きいほど強いゆれです。
| I値の範囲 | 震度階級 |
|---|---|
| 0.5 未満 | 震度0 |
| 0.5 〜 1.5 | 震度1 |
| 1.5 〜 2.5 | 震度2 |
| 2.5 〜 3.5 | 震度3 |
| 3.5 〜 4.5 | 震度4 |
| 4.5 〜 5.0 | 震度5弱 |
| 5.0 〜 5.5 | 震度5強 |
| 5.5 〜 6.0 | 震度6弱 |
| 6.0 〜 6.5 | 震度6強 |
| 6.5 以上 | 震度7 |
単位:ガル(gal) 単位
地震のゆれの強さは加速度(どのくらい速く動き始めるか)で表します。その単位がガル(gal)です。
地球の重力は約 980 gal です。震度7クラスの大地震では 1,000 gal を超えることもあります。
ふだんの静かなときは 0.001〜0.1 gal 程度のごくわずかなゆれです。
Raspberry Shake から送られてくる生データは「カウント値」という数字です。これを機種ごとに決まった感度(sensitivity)という数で割り、さらに100倍するとガル(gal)になります。
STA/LTA とは アルゴリズム
地震を自動で見つけるために使われている方法で、「アルゴリズム(計算の手順)」と呼びます。1970年代から世界中の地震計で使われている、とてもシンプルで確かな方法です。
考え方は一言でいうと「今この瞬間のゆれが、ふだんのゆれより大きく跳ね上がったら地震だ」というものです。
STA(今この瞬間のゆれの大きさ) アルゴリズム
STAは「直近ほんの数秒間のゆれの大きさの平均」です。Short-Term Average(短い時間の平均)の頭文字です。
なぜ「二乗」するの?
地震の波形はプラスにもマイナスにもゆれます。プラスとマイナスをそのまま足すと打ち消し合ってほぼゼロになってしまいます。二乗(×自分自身)すると必ずプラスになるので、「ゆれの大きさだけ」を正しく取り出せます。これは音響や電気でも使われる「エネルギーの計算方法」と同じ考え方です。
STAの時間を変えるとどうなる?
LTA(ふだんのゆれの大きさ) アルゴリズム
LTAは「ふだんの静かなときのゆれの大きさの平均」です。Long-Term Average(長い時間の平均)の頭文字です。STAと比べる「基準」として使います。
こうすることで、地震が来てSTAが急増しても、LTAはすぐには変わりません。「さっきまで静かだったのに今急に大きくなった」という変化をしっかり見つけられます。
LTAの時間を変えるとどうなる?
ratio(STA ÷ LTA) アルゴリズム
STAをLTAで割った値をratio(レシオ)といいます。「今のゆれがふだんの何倍か」を表す数です。この数があらかじめ決めたレベル(閾値・しきい値)を超えたら「地震波が来た!」と判断します。
LTAの時間がSTAより長いほど(例:LTA=20秒、STA=1秒)、地震波が来たときにratioが大きく跳ね上がりやすくなります。ふだん静かな場所ほど、ratio が劇的に変化するので検出しやすくなります。
地震を検出してから震度を確定するまで アルゴリズム
ratioが大きくなっただけで即座に震度は確定しません。次の2段階で処理されます。
同じ地震を二重に記録しないようにする
一度地震を検出した後は、しばらくの間(det-hold秒間)は次の検出をしません。S波や余震でもう一度反応して「また別の地震が来た!」と誤って記録するのを防ぐためです。
設定値一覧 設定
| 設定名 | 初期値 | 意味 |
|---|---|---|
--sta |
1.0 秒 | 「今のゆれ」を見る時間の長さ。短いほどP波(前ぶれ)に素早く反応する |
--lta |
20.0 秒 | 「ふだんのゆれ」を見る時間の長さ。長いほど周辺の雑音に惑わされにくくなる |
--trig |
3.5 | 「ふだんの何倍になったら地震と判断するか」のレベル。低いと反応しやすい分、誤検知も増える |
--det-hold |
20.0 秒 | 地震を検出した後、次の検出をしない時間。余震などの二重記録を防ぐ |
--rt-window |
60 秒 | 地震を検出してから震度を確定するまで待つ時間。S波が十分来るまで待つ |
--sensitivity |
機種によって異なる | カウント値→加速度(gal)に変換するための数。機種ごとに決まっている |
設定の調整方法
設定を変えると「反応しやすさ」と「誤検知のしにくさ」が変わります。どちらかを上げるともう一方が下がる関係(トレードオフ)です。
| こんな場所・状況 | おすすめの調整 | 理由 |
|---|---|---|
| 道路沿い・騒がしい場所 | LTAを長めに(30〜60秒) trigを高めに(4〜5) |
車や工事の振動で誤反応しにくくする |
| 静かな場所・近くの地震を早く捉えたい | STAを短めに(0.5秒) trigを低めに(3.0) |
P波(前ぶれ)の弱いゆれにも素早く反応できる |
| 余震が多い状況 | det-holdを長めに(60秒) | 同じ地震を何度も記録してしまうのを防ぐ |
緊急地震速報(EEW)とは EEW
テレビやスマートフォンから突然「緊急地震速報」という音が鳴ることがありますね。これは「もうすぐ大きなゆれが来るよ!」と知らせてくれるシステムです。正式名称は緊急地震速報(EEW)といいます。
すでに起きた地震の「前ぶれの波(P波)」をキャッチして、「本番のゆれ(S波)」が届く前にあわてて知らせているのです。
気象庁は全国に約1,000か所の地震計を置いています。どこかで地震が起きると、そのデータがすぐに集まり、数秒のうちに警報を出します。
どうやって警報を出すの? しくみ
警報が出るまでの流れを見てみましょう。
なぜ間に合うの? 波の速さのちがい
地震の波には「P波(前ぶれ)」と「S波(本番のゆれ)」の2種類があり、速さがちがいます。さらに警報を届ける「電波」はもっとずっと速いのです。
| 種類 | 速さ(だいたい) | どんなゆれ? |
|---|---|---|
| P波(前ぶれの波) | 1秒間に 5〜7 km | 小さい・縦にゆれる |
| S波(本番のゆれ) | 1秒間に 3〜4 km | 大きい・横にゆれる(建物を壊す主な原因) |
| 電波(警報の信号) | 1秒間に 30万 km(光と同じ) | —(揺れではなく情報) |
警報が届いてからゆれるまでの時間 しくみ
警報が来てから本番のゆれが来るまでの時間(「猶予時間」といいます)は、震源からどのくらい離れているかによって変わります。
例:震源から100 km離れた場所の場合
| 起きること | だいたい何秒後? |
|---|---|
| 地震が発生 | 0秒(スタート) |
| 前ぶれの波(P波)が近くの地震計に届く | 約 3〜5秒後 |
| 警報がスマホ・テレビに届く | 約 8〜10秒後 |
| 本番のゆれ(S波)が100 km地点に届く | 約 25〜30秒後 |
EEWが苦手なこと 注意点
EEWはとても便利ですが、完璧ではありません。いくつか苦手なことがあります。
| 苦手なこと | なぜ? |
|---|---|
| 震源のすぐ近くでは間に合わない | 計算して警報を出すのに数秒かかります。震源から数km以内では、本番のゆれがほぼ同時に来てしまいます |
| 最初の発表は「おおよそ」の予測 | 最初はP波だけを見て計算するので誤差があります。後から「やっぱり震度が違った」と更新されることもあります |
| ごくまれに「空振り」することがある | 地震計の機械トラブルや落雷などで、実際には大きくないのに警報が出ることがあります |
P2P地震情報とは何がちがう? 比較
このプログラムでは、気象庁のEEWとは別に、P2P地震情報というサービスからもデータを受け取っています。どちらも「地震の情報」ですが、目的がちがいます。
| 気象庁 EEW | P2P地震情報 | |
|---|---|---|
| いつの情報? | ゆれる前の予告 | ゆれた後の記録 |
| 何のため? | 身を守るための事前警告 | 各地で実際にどのくらいゆれたかを知るため |
| 情報はどこから? | 気象庁が管理する公式の地震計 | 全国のユーザーが「震度〇でした」と報告したデータ |
| 速さは? | とても速い(数秒〜十数秒) | 少し遅い(報告が集まるまで数分かかる) |
よくある疑問
STA/LTAはP波(前ぶれ)を検出する方法ですか?
震度とマグニチュードはどう違う?
震度は「その場所でどのくらいゆれたか」です。同じ地震でも、震源に近い場所は震度が大きく、遠い場所は小さくなります。地面の硬さや地層によっても変わります。
LTAはSTAより必ず長くないといけないの?
なぜ上下・南北・東西の3方向を合成して使うの?
震度はS波が来てから確定するのに、なぜP波で反応するの?
一方震度の確定は「どのくらいゆれたか」の正確な記録です。S波まで含めた揺れ全体で計算しないと正確な値にならないため、しばらく待ってから確定します。